制度・理念・実践
雇用推進セミナナー2022
私たちの法人は、2007年より職場適応援助者養成研修に取り組み始めたが、同時に研修の修了生を対象にこれまで毎年1回、フォローアップ研修を開催してきた。その時々の話題や行政説明、実践の報告、事例の検討……等々。全国各地から修了生50名ほどが毎年集まって、(コロナ前は終了後の懇親会まで)大いに障害者雇用のことを語り合う一日である。
2014年から、午前中の講演会や行政説明などは地域の修了生以外に公開をし、後の事例検討や実践報告は養成研修修了生に限定とする形式をとるようになった。
一昨日の11月26日(土)に、午前中は「雇用推進セミナー2022」、そして午後は「第16回目フォローアップ研修」を開催した。
今回の午前中の今年度のテーマは「障害者雇用のこれから」。
厚生労働省障害者雇用対策課長 小野寺 徳子氏より、「今後の障害者雇用施策充実強化について」~ 雇用の質向上を目指して~、東京通信大学教授 松為 信雄氏より、「障害者雇用の理念」~障害者雇用の基本的視点~と題して、お二人よりお話しをお聞きした。
制度
小野寺課長のお話は、以下の4点について。
- 障害者雇用の現状
- 雇用施策と福祉の連携強化
- 障害者雇用の今後方向性
- 障害者雇用の質向上にけて
ここ数年、大きく動き出した障害者雇用制度について、その流れを踏まえ、今後の国が考えている方向性や課題、今回の法改正の意味するところなどを非常にわかりやすく説明をしていただいた。
特に福祉と労働の連携、就業支援基礎研修、ジョブコーチ・ナカポツの在り方等々……実に話は多方面に渡ったが、それらの話を整理してお話しをいただき、参加者からも「とてもわかりやすかった」「よくわかった」等の声がたくさん寄せられた。
小野寺課長の話を聞いていていつも思う。資料自体は国の制度説明で使われている資料で、行政説明で使われているものだが、その説明する言葉に思いが込められており、一つ一つの言葉が重く、心にズンとくる。だからこそ、聞く側にも届いてくるのだろう。
もう一つ、私自身もこれまでも検討会やワーキンググループなどに参加させていただいているのだが、そうした一つ一つの場所で、どのような事が語られ、制度が作られていくか、ということをしっかりと知っていかなければならないと改めて思った。あわせてしっかりと意見を伝えていくこと。制度は勝手に作られるのではなく、自らが作っていかなければならないということ。
勿論、制度が全て十分とは決して言えないし、変えていかなければならないことは、たくさんある。中には、自分たちの思いと違うところになってしまうこともある。だからこそ、絶えずアンテナを高く張っていかなければならないと思う。
理念
松為先生からは、以下の4点についてお話しがあった。
- 「働くこと」の意義
- 知識と技術の体系
- 障害者雇用の意義と方法
- 人材の育成
松為先生は、私たちの法人が厚生労働大臣指定の職場適応援助者養成研修を始めた2007年よりこれまで15年間、41回におよぶ養成研修全てで、初日の「職業リハビリテーション」の講義をしていただいた。くらしえん・しごとえんの養成研修の修了生は、必ず松為先生の話は聞いている。また、フォローアップ研修にもこれまで毎回さんかしていただいている。
私も事務局長も、その回数だけ先生の話を聞いてきている。
時代と共に、法律が変わり、制度が変わってきてはいるが、一貫して変わらないものがある。
それが、「人が働く」ということだと私は思う。ジョブコーチとして雇用現場に入っていると、目の前には、障がいのある方だけではなく、実に多くの「働く姿」に直面する。職場適応、というよりも、離転職支援になったり、現場に関わったときには、様々な感情が入り乱れて収集がつかないことも多くある。
様々な思いの板挟みになったり、問題の本質が見えなくなってしまっているときの、より所となるものが、絶対に必要となる。
自分自身の立ち位置を絶えず確認できるもの、困難な状況に直面したときに、立ち返るべき原点。
何度も何度も、困難に直面し、その度に立ち戻り、自分の「血肉」としていくべき「理念」が、これからますます確立していかないといけないと思うのだった。
原点を確認する場。それが松為先生の話であると思う。
そして実践
くらしえん・しごとえんの養成研修は、研修最終日となる6日目は、受講生から提供された事例検討を3ケース、そして、私たちが雇用現場でジョブコーチ支援事例を障害別に紹介し意見交換をする。1ケース50分という限られた時間であるし、そもそも事例検討などには全く不慣れな受講生も多い。それでも、様々な立場・視点からの率直な意見を出し合うことにこそ、非常に重要なことだと思う。
午後の修了生限定の事例検討と実践報告。この時間が、一番面白く、楽しく、そして勉強になる時間だ。
今回の事例・報告は以下の通り。
3件は、雇用現場での話。
事例検討1「広汎性発達障害者における作業時の不安全行動への対応」
事例検討2「精神の社員と現場の調整、どうされていますか?」
実践報告1「サポートデスク設立」
実践報告2「いま、ジョブコーチ支援の現場で起きていること」
-職場適応援助だからこそ感じる課題と対策-
いずれも雇用現場で今起きている事、どんな対応をしていいのか悩んでいること、そうしたことを養成研修と同じように意見交換をする。
ただ、養成研修とは、全く異なることは、出される意見の鋭さだ。
研修ではあくまでも、事例検討の体験的な意味合いもあるが、このフォローアップ研修に、わざわざ参加してくる修了生の皆さんは、研修終了後もそれぞれの場で、就労支援、雇用支援の最前線で頑張っている人たちであり、現場経験に裏打ちされた言葉は、鋭く、重い。
だから面白い。
午前中の制度や理念は、現場での検証があってこそだと感じる。
私自身、日頃雇用現場で右往左往するたびに、基軸を確認し、制度を見つめ、そしてまた、現場に出向いていく。
制度が私たちの枠組みを決める。
理念は私たちの向かうべき道を指し示す。
そして、現場での実践は、制度をよりよいものに作り上げ、理念を現実と結びつけていく。
そうして、私たちのジョブコーチとしての日々が続くのだと思う。